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ハリウッド黄金時代の光と影を描いた、ライアン・マーフィー製作のリミテッド・シリーズ。人種差別・LGBTQ・性的搾取といった問題に切り込みながらも、華やかなエンタメ作品に仕上がっています。ドラマの登場人物や物語は、実話なのかについても検証してみました!『ハリウッド』のあらすじ・キャスト・感想などを、ネタバレあり&なしで紹介します。
『ハリウッド』概要
ジャンル:ヒューマン・ドラマ、社会派
製作国:アメリカ
原作・製作:ライアン・マーフィー、イアン・ブレナン
話数:全7話、1話約55分
日本語吹き替え:あり
『ハリウッド』あらすじ(ネタバレなし)
1940年代のハリウッド、ジャックは俳優を夢見て妻と共にハリウッドにやって来たが、エキストラの役ももらえずアパートの電気も止められてしまう。
仕方なく他の仕事を探し、アーニーが経営する給油所で働き始める。この給油所はイケメン男性を雇い、女性や同性愛者に売春を斡旋していてジャックも売春の仕事をするようになる。
脚本家志望のアーチーもジャックの紹介で給油所で働き始め、客としてやって来たロック・ハドソンと知り合う。アーチーの書いた脚本『ペグ』がエーススタジオの目に留まり、映画化の話が進む。
『ペグ』を監督することになったレイモンドはアジア人と白人の混血で、新人黒人女優のカミールと付き合っている。
有色人種のレイモンドとアーチーは、『ペグ』を黒人が主役の『メグ』に変更したいとスタジオの重役のディックとエレンに持ち掛ける。
ハリウッドを変える意義のある映画を作ろうと、製作者と俳優たちは人種差別の色濃く残るハリウッドと戦うことになる。
『ハリウッド』感想&評価(ネタバレなし)
IMDb:7.5(10点中)
おすすめ度:★★★★☆
ストーリー:★★★★☆
エンタメ性:★★★★★
感動:★★★★☆
1940年代のハリウッドを舞台に、ハリウッドで成功を夢見る若者達と、意義のある映画を作ろうとする映画製作者たちの奮闘を描いたドラマです。
煌びやかなハリウッドで成功の階段を昇り詰めていく過程と共に、ハリウッドでまかり通る人種差別やLGBTQの問題に痛烈に切り込んでいます。
1940年代が舞台だしまさかこういうテーマを描いているとは思わず、最初は面喰いましたがその意外性が逆によかったです。
少し前まで白すぎるハリウッドと言われ、ハリウッドの性的搾取を問題視した#Metoo運動が起こるなど、長きに渡るハリウッドの問題に光を当てています。
それでも全体的に重い印象にならず、ハリウッドの黄金期らしい煌びやかさを持ったエンタメ作品に仕上がっているのがとってもいい!
人気俳優のロック・ハドソンや『風と共に去りぬ』のビビアン・リーなど、往年のスターが登場するのも魅力です。当時のクラシックなファッションもとっても素敵♡
キラキラとしたハリウッドの表と、その裏で性的搾取される新人俳優や人種差別問題といったハリウッドの光と影をうまく描いています。
ハリウッドにおける女性の地位向上についてもスポット当てた、見事なウォークイズム作品です。ラストがすごくよかったし本来ならこうあるべきだ、というちょっとした歴史改変的なドラマ構成がおもしろい。
史実とフィクションのミックス具合が絶妙で、テンポのいい展開と魅力的なストーリーで、最後まで視聴者を引き付ける社会派エンタメ作に仕上がっています。見応えのあるヒューマン・ドラマや、クラシック映画ファンの方におすすめです。
『ハリウッド』キャスト
ジャック・カステロ(デヴィッド・コレンスウェット)
俳優を夢見てハリウッドにやって来た退役軍人。ウェイトレスのヘンリエッタと結婚しており、アーニーの給油所で働き始める。
アーチー・コールマン(ジェレミー・ポープ)
脚本家志望の黒人青年で同性愛者。ハリウッド女優が自殺した実話を基にした『ペグ』を執筆し、エーススタジオの目に留まる。
ロック・ハドソン(ジェイク・ピッキング)
俳優志望の同性愛者。本名はロイ・フィッツジェラルドだが、マネージャーのヘンリーに改名させられる。
ヘンリー・ウィルソン(ジム・パーソンズ)
ロックを売り出すマネージャーで同性愛者。自分に従わせるために人の弱みを握り、担当俳優からの性的搾取も平気で行う。
レイモンド・エインズリー(ダレン・クリス)
『ペグ』を監督することになる新人監督で、カミールの恋人。フィリピン人と白人の混血で、自分をアジア系だと自認している。
カミール・ワシントン(ローラー・ハリアー)
黒人の新人女優でレイモンドの恋人。召使いなどのステレオタイプの役しかないことに不満を抱いている。
アーニー・ウェスト(ディラン・マクダーモット)
ハリウッドの給油所のオーナー。元俳優志望で、イケメンの従業員を雇い給油所で売春斡旋を行っている。
ディック・サミュエルズ(ジョー・マンテロ)
エーススタジオの重役で同性愛者。『ペグ』の製作に関わり、ハリウッドの気質を変えていこうとする。
エイヴィス・アムバーグ(パティ・ルポーン)
エーススタジオの社長の妻。病気で倒れた夫の代わりに経営することになるが、今までなかった新しい作品に挑戦する。
エレン・キンケイド(ホーランド・テイラー)
エーススタジオの幹部。エイヴィスとディックと共に新たな作品作りに挑戦していく。
クレア・ウッド(サマラ・ウィービング)
エイヴィスの娘で女優志望。カミールのライバルで、ペグの役を競うことになる。
ヘンリエッタ(モード・アパトー)
ジャックの妻で妊娠中。収入の少ない夫の将来のことを心配し、妊娠中ながらウェイトレスをして家計を助けている。
『ハリウッド』全あらすじ・ラスト結末(ネタバレあり)
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1940年代のハリウッド、ジャックは俳優を夢見て妻と共にハリウッドにやって来たが、仕事にありつけない。ジャックは生活のためアーニーが経営する給油所で働き始めるが、この給油所はイケメン男性を雇い、女性や同性愛者に売春を斡旋していた。売春の合言葉は「夢の国」でジャックも生活のために、仕方なく売春の仕事をするようになる。脚本家志望のアーチーもジャックの紹介で給油所で働き始め、客としてやって来たロック・ハドソンと知り合い、二人は恋に落ちる。
ロックはマネージャーのヘンリー・ウィルソンに、役を得るために自分に奉仕しろと性的関係を強要される。ジャックは売春で知り合ったスタジオの女性の紹介でスクリーンテストを受けることになり、エレン・キンケイドの目に留まりスタジオと契約する。アーチーの書いた脚本『ペグ』の映画化の話が進む。『ペグ』を監督することになったレイモンド・エインズリーはアジア人と白人の混血で、新人黒人女優のカミールと付き合っている。有色人種のレイモンドとアーチーは、『ペグ』を黒人が主役の『メグ』に変更したいとスタジオの重役のディックに持ち掛ける。
エーススタジオの社長が心臓発作を起こして危篤になり、妻のエイヴィスが代理として経営を任される。ディックとエレンは『ペグ』を『メグ』に変更し、黒人女優を主役にしたいと話しエイヴィスは製作を許可する。主役のメグにカミールが決まり、恋人役にジャック、ロックはバーテンダー役で出演することになる。『メグ』のニュースはアメリカで物議を醸し、エーススタジオの他の映画が上演禁止になるなど全米でボイコットされてしまう。予算内で収める必要があったが追加の予算が必要となり、給油所のアーニーが独自のネットワークを利用して資金を集める。
ジャックが過去に買収で逮捕されたときの写真がゴシップ誌に渡り、ヘンリーがマフィアを雇いゴシップをもみ消す。ヘンリーはその見返りに『メグ』のプロデューサーになることを要求し、スタジオはヘンリーの要求を飲む。ジャックとアーチーは製作資金を集めてくれたアーニーへのお礼として、『メグ』にアーニー用の役を書き足し俳優として出演させる。上映に反対だったエースの弁護士が『メグ』のフィルムを燃やしてしまうが、フィルム編集者がフィルムを複製しており映画は無事公開され記録的な大ヒットとなる。
『メグ』はアカデミー賞で多数ノミネートされ、カミールが主演女優賞、アンナ・メイ・ウォンが助演女優賞、エインズリーが監督賞を受賞し作品賞も獲得した。ヘンリーはこれまでの行いを反省してロックに謝罪し。同性愛者の恋愛映画を製作するからロックに出演してほしいと頼む。同性愛者の恋愛映画『夢の国』の製作が始まり、撮影の舞台はアーニーの給油所。映画の監督はエインズリーで脚本はアーチーが担当し、ロックとジャックが出演する。
『ハリウッド』見どころ・解説・考察(ネタバレあり)
実話がベースになっている⁉
『ハリウッド』は多くの往年のハリウッドスターが登場するため、もしかして実話に基づいている?と思う方も多いのではないでしょうか。
ジャック、カミール、エインズリー、アーチーなどは架空の人物ですが、実在の人物をモデルにしたり実話に基づいたエピソードも登場し、実話からインスパイアされたドラマと言えます。『ハリウッド』に登場する実在した人物&モデルとなった人物を紹介します。
ロック・ハドソン

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ロック・ハドソンは実在の人気俳優で、『ジャイアンツ』『武器よさらば』など名作に出演した有名スターです。
長年同性愛者ということを隠し1985年にエイズを発症した後、同性愛者であることを公表しました。著名人としては世界で初めてエイズ患者であることを公言した人物で、1985年に59歳という若さで他界しました。
ヘンリー・ウィルソン
ロック・ハドソンのマネージャー役のヘンリー・ウィルソンも、実在の人物で実際にロックのマネージャーを長年務めました。
ラナ・ターナーやトロイ・ドナヒューが有名になるきっかけを作った人物で、スターを見抜く才能は本物だったよう。
ウィルソンがゲイであることはハリウッドでは公然の秘密で、彼は多くのクライアントから性的搾取を行い、本作のプロデューサーのライアン・マーフィーは「ヘンリー・ウィルソンはハーヴェイ・ワインスタインの元祖のような存在で、いろんな意味で怪物だった」と話しています。
人の弱みに付け込む超絶性格の悪いヘンリーを演じた、ジム・パーソンズの演技がめちゃくちゃうまかった!
ハティ・マクダニエル

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ハティ・マクダウェルは『風と共に去りぬの』黒人奴隷のマミー役で、アフリカ系アメリカ人俳優として初めてアカデミー助演女優賞を受賞しました。ドラマでは人種差別の蔓延するハリウッドで、新人女優のカミールのメンターとなります。
ドラマ内でハティは自分がオスカーを受賞した年に、アカデミー賞授賞式が行われた会場が「有色人種お断り」だったために出入り禁止になった経験を語っています。
第12回アカデミー賞はアンバサダー・ホテルで開催されましたが、当時は有色人種の利用禁止のポリシーがありました。ハティが会場に入るには特別な配慮が必要で、入場を許可されるとハティは会場から離れた小さなテーブルに座らされたそうです。
アンナ・メイ・ウォン

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『メグ』に出演しアカデミー助演女優賞を受賞した、アジア人女優のアンナ・メイ・ウォンも実在の人物です。1920年代にサイレント映画で名声を得ますが、業界内外の人種差別的により辛酸を嘗めることに…。
スクリーンの中で異人種間の関係を示唆することさえ禁じていた法律のせいで、アンナは奴隷の娘や召使いに配役され、主役はアジア人のようなメイクをした白人女優に回っていたというから現代では信じられないような話。
アンナは『大地』の阿蘭役のスクリーン・テストで見事な演技を披露し、当時ハリウッドで唯一の中国系アメリカ人女優であったにも関わらず、この役はルイーズ・ライナーに与えられラトナーはこの演技で2年連続オスカーを受賞しました。
アーニーの給油所
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全ての物語の始まりとなるのがアーニーの給油所です。チップがいいと聞いて働き始めたジャックですが、ここが売春の斡旋を行い自分も売春に駆り出されると知って大慌て。
生活のために仕方なくこの世界に足を踏み入れますが、ここで業界人と知り合いコネクションを作っていきます。
こんな給油所は本当にあったのか⁉と、ここが一番フィクションぽいと思ったものの、何とモデルになった給油所があるというから驚きです。
アーニーのモデルになったスコッティ・バワーズは回顧録『Full Service: My Adventures in Hollywood and the Secret Sex Lives of the Stars.(原題) 』で次のように書いています。
「戦争従軍後にロサンゼルスに移り住み、ハリウッド大通りにあるリッチフィールド石油のガソリンスタンドで働くことになった。ある日、カナダ人俳優のウォルター・ピジョンの相手をしたことで、ハリウッドのポン引きとしての役割が始まった。」
通称 “ミスター・セックス “と呼ばれたバワーズは、セックス・ワーカーたちのネットワークを築き、ケーリー・グラント、キャサリン・ヘプバーン、ベティ・デイヴィスなど、多くのAリストのために逢瀬をセッティングしたと主張しています。
ペグの話は実話?
ドラマ内で製作される『メグ』は最初は白人女優が自殺する『ペグ』で、実話が元になっていると説明されています。
これは事実でハリウッドサインの「H」の文字の看板から投身自殺した、ペグ・エントウィスルの話はすごく有名。
1920年代から30年代にかけてブロードウェイで成功を収めた後、映画スターを目指してロサンゼルスに移住しますが、映画界は舞台よりもはるかに参入が難しいと分かります。
ようやくデヴィッド・O・セルズニック監督の『13人の女』に出演が決まりますが、ペグの演じた役にはレズビアンの描写があったため、試写会後彼女の出演シーンのほとんどがカットされてしまいました。
ペグはうつ病になり、ハリウッドサインの「H」にあるメンテナンス用のはしごに登って飛び降り自殺をしたと伝えられています。
ハリウッドサインが違う?
かの有名なハリウッドサインですが、『ハリウッド』に登場するサインはなぜか「HOLLYWOODLAND」になっています。このサインが最初に建設されたのは1923年で、住宅開発地用の広告看板として設置されていました。
当初は「HOLLYWOODLAND」と文字が並んでいましたが、1949年ハリウッド商工会議所はロサンゼルス市公園局と契約を結んで、このサインの修繕・修復に当たることになります。
この契約には住宅開発地の名称ではなく地区名を表現するようにとあったため、従来の文字から末尾の「LAND」を撤去して「HOLLYWOODとなったそうです。
ハリウッドの歴史改変ドラマ
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『ハリウッド』は史実とフィクションをうまくミックスしたドラマですが、1940年代に『メグ』のような黒人女優が主役の作品が作られ、カミールやアンナのような有色人種がアカデミー賞を受賞したという事実はありません。
アジア系俳優でアカデミー賞を初めて受賞したのは、2022年の『エヴリシング エブリフェア オール・アット・ワンス』で主演女優賞を受賞したミッシェル・ヨーと、助演男優賞を獲得したキー・ホイ・クァンです。つい去年の出来事だというのが何だか悲しくなります…。
マーフィーはこの作品についてTIME誌に次のように語っています。「私は全員とは言わないまでも、何人かの人々をハッピーエンドにするような作品を作りたかったのです。
ハリウッドが人々の心を変える力について、ハリウッドという架空の別世界を作り、実在の人物や実在の人物をモデルにした架空の人物を登場させて描きたかった」。
本来ならこうあるべきという、ハリウッドの理想の形を描いた歴史改変的な構成が興味深い。もし本当に1940年代に『メグ』が作られていたら、ハリウッドはもっと昔に古い風潮と気質が大きく変化し違う形になっていたのかもしれません。
つい最近までハリウッドは肌の色や性的思考で差別され、役を得るために性的搾取される世界でした。ドラマの舞台になった1940年代から80年以上経ち、やっとハリウッドが変わり始めましたが、あまりにも遅すぎる変化と言えるかもしれません。
参照記事:The True Stories Behind Ryan Murphy’s New Netflix Series Hollywood
『ハリウッド』のネット上での評判は?
#Netflix ドラマ
ハリウッド俳優志望のジャックは妊娠中の妻を抱えるも、エキストラにも選ばれず生活に困窮
割りの良い仕事に誘われるが、そのガススタンドは給油の他に“特別なサービス”を提供していた…成功に必要なのは“勇気”か“尊厳の放棄”か
映画は現実だけではなく、
“あるべき姿も描ける” pic.twitter.com/rGGUGMkqSu— やみくろ (@yamikuro1027) June 2, 2020
#ハリウッド
Netflixオリジナルドラマ。ハリウッドで夢を追う俳優の卵たちが、痛みを伴いながら体当たりで登りつめていく様が何とも切なく。どのくらい忠実に再現されてるのかな。フィクションの中にも実在の俳優たちがたくさん出てくるから、映画好きはたまらん〜👀
40年代のファッションも眼福♡ pic.twitter.com/P1zUYdniZu— つばさ (@Netflixhakami) May 8, 2020
『ハリウッド』まとめ
思っていたのと違う内容だったものの、その意外性がよくてすごくおもしろかったです!ハリウッド黄金期の煌びやかさと、その裏でまかり通ってきたハリウッドの長きに渡る闇に切り込んでいて見応えたっぷり。
それでもやっぱりハリウッドは夢の国なんだな…、という希望のあるラストもすごくよかったです。Netflixに加入されている方はぜひチェックしてみてください♪